1963年、イタリアワインの伝統と歴史を守るべく制定されたイタリアワイン法。
その格付けにはイタリアの土着品種の使用や様々な制限がされていました。
もちろんこの規定は従来の生産者を守るものであり、本来の目的のイタリアワインの質を守った功績があったことは間違いありません。

一方でよりそのルールにとらわれない自由なワイン造りに挑戦したワイナリーがありました。
それが「スーパータスカン」です。
しかしそれは格付けにおいて不利であり、高品質・高価であってもイタリアワインの格付けの中では「テーブルワイン」のランクになってしまいます。
より自由で新たなワインを求めるイタリアワインの歴史を今回は紐解いていきましょう。

スーパータスカンの元祖「サッシカイア」

イタリア・トスカーナ州ボルゲリ地区でワインを製造していた「サッシカイア」
当初は自家用ワインの製造でしたが、やがてワイン造りに先鋭的な技術を取り入れ従来のイタリアワインの枠に囚われない新しいイタリアワインを世にリリースします。
1968年の販売からすぐにその評判は広がりました。ボルドースタイルのワインという物珍しさもあったとは思いますが、その高い品質に多くの人が驚いたことでしょう。
サッシカイアの地位を確固としたのは1978年・イタリアの権威あるワイン雑誌「デキャンタ―」が主催するブラインドテイスティング対決のことでした。
11か国、33種類のカベルネソーヴィニヨンのブレンドワインからブラインドでの評価の上、「ベスト・カベルネ」に選ばれたのがサッシカイアだったのです。
シャトーマルゴーなどの数々のフランスの名門を抑えての受賞であり、ワイン業界に激震が走りました。
イタリアワインにおいてこれは事件ともいえる出来事であり、世界に「サッシカイア」の名前が広く知れ渡ることになります。

しかしこの「ベスト・カベルネ」のトップとして選ばれたサッシカイアは当時のイタリアワインの法では、あくまで「Vino da Tavola=テーブルワイン」の格付けでした。
トスカーナ産のワインとしてのDOCGやDOCのような上位の格付けを得るためにはイタリア品種のぶどうのみで製造される必要があったためです。
(サッシカイアはカベルネソーヴィニヨンを主体でカベルネフランを補助品質として使用しています)

この出来事によりイタリアワインの原産地呼称法にとらわれない新しいワインが評価されこれが「スーパータスカン」誕生の時代ともいえるでしょう。

 

ティニャネロ、ソライア、そしてオルネライア

 

サッシカイアに好例により多くの資産家がワイナリ―を建設しました。またかつては高価なイタリアワインでは控えられていた国際品種も積極的に採用されていきます。
閉鎖的とも言われていたイタリアワイン業界は、この出来事によって大きく動き出し、劇的な品質の向上を実現しています。

サッシカイアの評価によりサッシカイアが生産されるボルゲリ地区では多くのワイナリーが誕生しました。
そしてその風はキャンティに届きます。キャンティ・クラシコという歴史ある地区においても、ワインの法や規定にとらわれず、純粋に美味しいワインを求めて作られたのが「ティニャネロ」そして「ソライア」です。
歴史ある名門ワイナリーとしてすでに高い評価を得ていたアンティノリが、新たなワイン作りに取り組みました。
すでにキャンティ・クラシコの中心にありDOCGも獲得しているアンティノリは高い評価を得ていましたが、DOCGの規定から外れるワインをリリースしたのです。
アンティノリは従来よりサンジョヴェーゼの品質を重んじていましたが、アンティノリ家26代目のピエロ・アンティノリ侯爵は、よりサンジョヴェーゼの魅力を引き出すためにカベルネソーヴィニヨンをブレンドしたのです。
1971年に発売された「ティニャネロ」です。
これはサッシカイアに続くスーパータスカンの先駆となるボトルでした。
1978年にはティニャネロのぶどうの比率をまったく逆にした「ソライア」を発表しました。

すでにDOCGとして高い評価を得ていたワイナリーが、このようなワインを送り出したことは当時のイタリアワイン法への挑戦ともいえる姿勢でした。

1981年にはアンティノリ家の当主の弟にあたるロドヴィゴ・アンティノリ氏が「テヌータ・デル・オルネライア」を設立します。
どうやらサッシカイアを作っていたインチーザ・デッラ・ロッケッタ家と、ティニャネロ、ソライア、そしてオルネライアを付くったアンティノリ家は親交があったようです。
オルネライアは「何よりも品質を重んじるワイン作り」を哲学としており、ボルゲリに位置するテロワールを最大限に引き出すことに情熱を注いできました。

オルネライアの評判は、さまざまな場所で、さまざまな時点において高い評価を得ています。
2001年には”The Top 100 Wines(Wine Spectator)”にて名だたる生産者を抑えて第一位に選ばれています。

イタリアワインはあらたな時代へ

・サッシカイア
・ソライア
・オルネライア
この3つが3大スーパータスカンとして良く知られています。

1994年に、イタリアワインの法改正によりサッシカイアは原産地呼称DOCに昇格されました。
それは「サッシカイア・ボルゲリ」という名のDOCでした。
サッシカイアを冠するこの名称はイタリアワイン法の歴史において初めて単独のワイナリーがDOCとして認められた事例になっています。
スーパータスカンの高い品質によって、保守的とされていたイタリアワイン法の制定も大きく変化していっています。
以前より規制が緩められるケースもおおくなり、真摯な姿勢をもつワイナリーを高く評価する傾向にあります。

まとめ

今回はイタリアワインを語るうえでは避けては通れない「スーパータスカン」についてのご紹介でした。
伝統的なワイン作りが盛んであったイタリアにおいて、それらにとらわれない新たなワイン作りは挑戦であっとことに間違いはありません。
しかしサッシカイア、そしてそれに続いたスーパータスカンワインによってイタリアワインは新たなステージに登ったのです。

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