ニッカウヰスキー余市蒸溜所は、日本のウイスキー製造の歴史において極めて重要な存在であり、「日本のウイスキーの父」と称される竹鶴政孝によって1934年に設立された、ニッカウヰスキーの創業地です。北海道余市郡余市町に位置するこの蒸溜所は、スコットランドのウイスキー製造をモデルにしつつ、日本の風土と技術を融合させた独自のウイスキーづくりで知られています。

1. 余市蒸溜所の歴史

余市蒸溜所の歴史は、竹鶴政孝の情熱とビジョンに深く根ざしています。竹鶴は1918年にスコットランドに留学し、そこで本場のウイスキー製造技術を学びました。帰国後、彼は寿屋(現在のサントリー)でウイスキー製造に携わりましたが、スコッチウイスキーに匹敵する本格的なモルトウイスキーを日本で作りたいという夢を実現するため、1934年に独立して「大日本果汁株式会社」を設立しました。この社名は、ウイスキーの熟成に長期間を要するため、初期の資金源としてリンゴジュースの製造販売を行うためのものでした。

余市が選ばれた理由は、ウイスキーづくりに最適な環境にありました。余市町は三方を山に囲まれ、北に日本海が広がる自然豊かな地域で、スコットランドのハイランド地方に似た冷涼で湿潤な気候、澄んだ空気、そして余市川の良質な水が揃っていました。さらに、原料の大麦や燃料の石炭、ピート、木材も入手しやすく、ウイスキー製造に必要な条件が整っていました。当初は江別市を候補地としていたものの、洪水リスクのため断念し、余市に決定した経緯があります。
1935年にポットスチル(単式蒸溜器)が導入され、翌1936年から本格的なウイスキー製造が開始されました。1940年に初の製品「ニッカウヰスキー」が発売されましたが、戦時中の物資不足によりウイスキーは贅沢品とされ、製造販売が制限されました。それでも、余市蒸溜所は大日本帝国海軍の指定工場となり、大麦の配給を受けながら原酒の製造を継続しました。

戦後はニッカウヰスキーがアサヒグループの一員となり、2001年にアサヒビールと営業統合。2002年にはザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティ(SMWS)の認定を受け、日本初のモルトウイスキー蒸溜所として国際的な評価を得ました。また、2004年に「北海道遺産」、2007年に「近代化産業遺産」に認定され、2022年には10棟の建造物が国の重要文化財に指定されるなど、その歴史的価値が高く評価されています。

2. 製造方法と特徴

余市蒸溜所の最大の特徴は、伝統的な「石炭直火蒸溜」を採用している点です。この方法は、スコットランドのロングモーン蒸溜所をモデルにしており、ポットスチルの底部を石炭で直接加熱する製法です。1000℃を超える高温で石炭をくべ、適度な焦げを生み出すことで、ウイスキーに独特の香ばしさと複雑な風味を付与します。この技術は熟練の職人技を要し、現在では世界でも極めて稀な製法となっています。

ポットスチルは下向きのラインアームを持つストレートヘッド型で、アルコール以外の成分を多く残す設計により、原酒に力強く豊かな味わいをもたらします。初溜釜(ウォッシュスチル)と再溜釜(スピリッツスチル)を使い分けて蒸溜を行い、1日1バッチの生産を維持することで、品質第一主義を貫いています。また、余市ではピートを焚いて麦芽を乾燥させる伝統的なキルン塔(乾燥棟)を使用していた時期もあり、スモーキーなフレーバーのウイスキーを生み出していました。

原酒は樽で長期間熟成され、余市の冷涼な気候と湿潤な環境が、熟成過程でまろやかでバランスの取れた味わいを育みます。特に、第一貯蔵庫などの軟石造りの倉庫は、歴史的な建築様式と共にウイスキーの品質を支える重要な役割を果たしています。

3. 施設と見学ツアー

余市蒸溜所は、ウイスキー製造だけでなく観光地としても人気があります。敷地内には、製造工程の見学やウイスキーの試飲、歴史を学べる施設が充実しており、NHK連続テレビ小説「マッサン」の放送以降、訪れる観光客が増加しました。

ガイドツアー

予約制の無料ガイドツアーは、1回1~9名で1日12回開催され、約70分(見学約50分+試飲約20分)で構成されています。ツアーでは、蒸溜棟や貯蔵庫を見学し、石炭直火蒸溜の様子や熟成の過程を学ぶことができます。試飲では、ウイスキー3杯やアップルジュースが提供され、北海道産のスモークチーズやブランデーチョコなどの有料おつまみも楽しめます。

ニッカミュージアム

予約不要のニッカミュージアムは、竹鶴政孝の生涯やニッカウヰスキーの歴史を紹介する施設です。2021年にリニューアルされ、竹鶴の「言葉」を通じて彼の情熱や品質へのこだわりを展示しています。また、有料試飲コーナーでは、蒸溜所限定ウイスキーや主要ブランド(「余市」「竹鶴」「ブラックニッカ」「フロム・ザ・バレル」)を味わえます。

ディスティラリーショップとレストラン

ディスティラリーショップでは、余市蒸溜所限定ウイスキーや「キング・オブ・ブレンダーズ」をモチーフにしたグッズ、北海道らしいお菓子などが販売されています。レストランでは、ウイスキーに合うスコットランド料理やランチ、デザートを提供し、10:30~15:50に営業しています。

4. 文化財としての価値

余市蒸溜所の施設は、歴史的・建築的価値から国の重要文化財に指定されています。特に、キルン塔(第一乾燥塔)、第一貯蔵庫、事務所棟など10棟が登録されており、軟石造りの外壁や赤い屋根のレトロなデザインは、スコットランドの蒸溜所を彷彿とさせます。これらの建物は、創業当時の趣きを残しつつ、近代化産業遺産としても認定されています。

第一貯蔵庫は、1939年頃に建てられた木骨石造建築で、アーチ型の出入口や鉄板葺の屋根が特徴です。こうした建築は、ウイスキー熟成に適した環境を提供すると同時に、地域の歴史を伝える貴重な遺産となっています。

5. 観光地としての魅力

余市蒸溜所は、JR余市駅から徒歩2~3分、札幌から電車やバスで約1時間半とアクセスが良く、札幌近郊の観光スポットとして人気です。小樽駅からバスを利用する場合、余市駅前または余市駅前十字街で下車し、すぐに到着できます。ただし、車での訪問では試飲ができないため注意が必要です。

周辺には、道の駅「スペース・アップルよいち」(徒歩8分)、余市葡萄酒醸造所(徒歩21分)、余市宇宙記念館(徒歩9分)などの観光スポットがあり、ウイスキー以外の楽しみも豊富です。また、2023年12月23日~2024年1月7日は冬季休業となるため、訪問計画には注意が必要です。

6. 余市蒸溜所限定ウイスキー

余市蒸溜所では、蒸溜所限定のウイスキーが販売されており、ファンにとって大きな魅力です。代表的な銘柄には以下が含まれます:

  • シングルモルト余市 ピーティ&ソルティ:ピートと塩気のある独特な味わい。
  • シングルモルト余市 シェリー&スイート:シェリー樽由来の甘みが特徴。
  • ブレンデッドウイスキー 鶴:かつて17年熟成で販売されていた銘柄を再現したノンエイジ品で、フルーティーでスパイシーな風味。

これらのウイスキーはディスティラリーショップで定価購入が可能ですが、終売の可能性もあるため、早めの訪問が推奨されます。ストレートやトワイスアップ(ウイスキーと水を1:1で割る飲み方)で飲むと、余市の個性的な味わいを最大限に楽しめます。

7. 現代における余市蒸溜所の意義

余市蒸溜所は、伝統を守りつつも進化を続けています。2024年に創業90周年を迎え、ビジターセンターの改修など施設の充実が図られています。また、宮城峡蒸溜所がコンピューター管理で増産体制を取る一方、余市は手作業による伝統的な製法を堅持し、生産量は宮城峡の1/8~1/10にとどまります。これは、消費者の嗜好がフルーティーな味わいに移行している影響もありますが、余市のピーティで力強い原酒はニッカのブレンデッドウイスキーに欠かせない個性を提供しています

結論

ニッカウヰスキー余市蒸溜所は、竹鶴政孝の夢と情熱が息づく場所であり、日本のウイスキー文化の礎です。石炭直火蒸溜や歴史的建造物、限定ウイスキー、観光施設としての魅力が融合し、国内外のウイスキーファンや観光客を引きつけています。スコットランドの伝統と日本の風土が織りなす余市蒸溜所は、単なる製造施設を超え、文化と歴史を体感できる特別な場所です。

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