独立系ボトラーとして不動の地位を築くゴードン&マクファイル社。
その歴史は128年にも及びます。

先日、独立ボトラーとして蒸留所からの買い付けを終了することを発表しました。
影響力の高いボトラーが発表したこのニュースはウイスキー業界を揺るがす事件ともいえます。
今回は歴史あるゴードンマクファイル社の歴史と展望について特集します。

ゴードンマクファイル社の歴史

1895年にイギリスのスコットランドで創業したゴードン&マクファイル社(以下G&M)はその長い歴史のほとんどをシングルモルトスコッチウイスキーのリリースに費やしてきました。
蒸留所からウイスキーを買取り、自社の樽で熟成させてからボトリングするボトラーズ(瓶詰業者)のパイオニアであることを疑う人はいないでしょう。

当時のスコッチウイスキーの蒸留所の多くは小規模経営でそのモルトウイスキーはブレンデッドウイスキーのために製造していました。
ブレンデッドウイスキーが人気だったため「シングルモルト」の注目度が非常に低い時代でした。
その中にあってG&M社はシングルモルトに重きをおいて蒸留所から買い付けたものを販売します。
それが現在にも至る「コニサーズチョイス」シリーズです。

これは当時の小規模蒸留所にとってどれほど大きな事だったかを考える必要があります。
これまでブレンデッド用のウイスキーとして自社の蒸留所の名前すら知られていなかったわけですが、コニサーズチョイスシリーズによって自分たちの蒸留所の名前を冠したボトルが店舗に並んでいるのです!
ラベルに印刷された蒸留所を見て、感動した人がいたのも頷けます。

以降、これに続くボトラーズ業者の興隆によってスコッチウイスキーそのものが守られたといっても過言ではありません。
ボトラーズ業者がいなければ、小さな蒸留所のほとんどは経営難によって潰れていたであろうと言われています。

これらの経緯からG&M社と多くの蒸留所との信頼関係は非常に深いものになりました。
中でも「蒸留所ラベルシリーズ」はボトラーズと蒸留所の関係の強さを物語っています。
このシリーズは生産者である蒸留所から公式な許可を得たラベルを使用しています。
つまり公式に認可されたボトラーズであり、ボトラーズでありながらオフィシャルボトルともいえます。
このような性格を持つウイスキーは他になく、長きにわたって蒸留所と信頼関係を培ってきた同社だからこそ可能になったボトルともいえます。

2018年には多岐に渡っていたラインナップを大幅にリニューアルしました。
・ DISCOVERY(ディスカバリー)
・ DISTILLERY LABEL(蒸留所ラベル)
・ CONNOISSEURS CHOICE(コニサーズチョイス)
・ PRIVATE COLLECTION(プライベートコレクション)
・ GENERATIONS(ジェネレイションズ)

新規買い付けの終了とG&M社の展望

2023年、G&M社は蒸留所からの買い付けを終了し、保有するストックのみを販売することを発表しました。
2024年からは新規の樽詰が無くなることになります。
しかし現在時点で同社が保有するストックしている樽の規模は計り知れず、市場からすぐにゴードンマクファイルの文字が消えるということは現実的にも考えられません。
これから数十年にわたってリリースされていくことは確かです。
(若い熟成のボトルが極端に減ることは推測がつきます。)
40年後にどのようになっているかは不明ですが、これはG&M社に限らずのことです。

最大手といえるG&M社がそのような決断をした背景も明らかにされています。
合計60以上の蒸留所との長期契約の多くが更新されなくなった(しなかった?)ことが直接的な原因でしょう。

拡大するウイスキーマーケットにおいて、蒸留所単体での需要はさらに高まることになります。
その中においてボトラーズ業者への販売への割り当ては厳しく、出来たとしても高額なものとなります。仮に高額な原酒を買い付けて樽詰したとしても、消費者への販売価格は適正とは言えない程に値上がりする可能性があります。
20世紀初頭、ボトラーズブランドが小規模蒸留所を支えていた時代と、真逆の状態になっています。これをマネージングディレクターのユアン・マッキントッシュ氏はこの市場の流れについて「自然な進化」としています。

この市場の変化は21世紀において顕著になりましたが、以前から同社は予測していたようです。
1993年にはベンロマックを購入し、近年では新たな蒸留所「ケアン」を設立しました。
このことにより、独立系ボトラーとしての活動から、自社蒸留所に集中する考えを明らかにしています。

独立ボトラーズとしての展望は限定されることになりますが、決してこれはゴードンマクファイル社の業務縮小ではありません。
未来を見据えた積極的なマーケティングであり、これからは別のアプローチによってスコッチウイスキー業界を支えていくことになります。

まとめ

独立ボトラーズとしての不動の位置を築いてきたG&M社。
その歴史には蒸留所との深い繋がり、そしてスコッチウイスキー業界を支えてきた過去がありました。
今回のニュースを聞いて少し残念に思われた方は少なくないと思います。
しかし、これはG&M社の新しいスタートであり、次々に移り変わっていくウイスキーマーケットの中での積極的な戦略といえます。
ベンロマック、そしてケアン蒸留所からどのようなリリースが続くかも気になるとことです。

いずれにしてもまだG&M社からボトラーズとしてのボトルは安定的に供給される見通しです。
G&Mのボトルに限らず、ボトラーズウイスキーは一期一会。
良いボトルと巡り合えるといいですね!